・【外食コラム 松坂健】「天ぷらとおでんからのSDGsなお店」という居酒屋がオープン

SDGsって何だ?
これからの経営戦略策定に欠かせない
持続的開発目標に外食も鋭く反応せよ!

 東京・上野駅前に「天ぷらとおでんからのSDGsなお店」という妙な店名の居酒屋が10月23日にオープンしている。
 SDGsという言葉に親しんでいない人にはちんぷんかんぷんだろうが、これはこの数年間、企業活動の要として、結構、多方面から聞こえてくる話題になっている。
 SDGsは、
Sustainable Development Goalsの頭文字SDGを綴ったものに複数形のsを付したもので、発音は「エスディージーズ」。
 訳語としては「持続可能な開発目標」で統一されている。
 サステイナブルというのは、難しい言葉で、たしかに「持続することができる」「やりつづけられる」という意味だが、ここでは、この活動自体を企業や一般の人たちがやり続けるということ。そして結果として地球全体がよりよい状態でサステインされることの二つの意味を同時に満たしているように思う。
 このSDGs宣言は2015年9月の国連サミットで全会一致にて採択されたものだ。
 基本的には2000年に採択された貧困や飢餓、環境破壊への課題克服を唱える「ミレニアム開発目標」(MDGs)が前身で、今回のものはそれをさらに徹底させたものだ。
 というのも、このMDGsはどちらかというと発展途上国向けの設定だったが、2015年目標で、アフリカなどでの極度の貧困が半減したり、HIV・マラリアの対策などにかなりの成果を残したからだ。その勢いを保ったまま、新たな達成期日を2030年に書き替えようと、今回のSDGsへの模様替えとなったのである。
 SDGsの基本コンセプトは①普遍性(先進国も含め全ての国が対象)②包摂性(人間全般の安全保障の理念に基づき「誰一人取り残さない」③参画型(すべてのステークホルダーが役割をもつ)④統合性(社会・経済・環境に統合的に取り組む)⑤透明性(定期的にフォローし、結果を報告する)の5つに集約されている。
 このコンセプトの上に、2030年までに果たすべき目標を17個に整理している。
 17とは数が多く、とてもじゃないが、付き合いきれないと思いたくなる数字だが、ひとつひとつ見ていくと、これだけの課題は地球全体の環境がよりよい状態で「持続」するためには仕方ないか、と納得せざるをえない。
 この目標については、外務省のホームページでSDGsをクリックすれば、カラーできれいにレイアウトされた一覧表を見ることができるので、一度は検索をお勧めいたい。
 ざっと17目標だけ列挙しておこう。
①貧困
②飢餓
③保健
④教育
⑤ジェンダー
⑥水・衛生
⑦エネルギー
⑧成長・雇用
⑨イノベーション
⑩不平等
⑪都市
⑫生産・消費
⑬気候変動
⑭海洋資源
⑮陸上資源
⑯平和
⑰実施手段
 国連決議では、この17目標の下に、さらに細かいターゲットが169も列挙されていて、それらを検証するための指標も232定められている。
 当然、そのすべてをカバーすることは当面難しいが、それでも今、取り組めることから順番にやっていなかいと、2030年などすぐ来てしまう。
 具体的には、これを各国別に重点政策に落とし込んで、企業・団体に協力要請をしていくことになる。
 日本は先に「SDGsアクションプラン2019」を発表している。詳しくは前述のホームページを見ていただきたいが、中小企業におけるSDGs活動推進、地方創生、女性のエンパワーメント、海洋プラスチックごみ問題、イノベーションを意識した教育改革などを当面のゴールズに設定している。
 17目標、169ターゲットはそれぞれ読み込めば、これから企業が「市民」として生きていくためには欠かせないコンテンツばかりという印象だ。全部をすべて同時にというのは、どだい不可能な話だが、3つでも4つでも目標を拾い上げ、それを自社の経営課題に取り込んで、それをマーケティング、コスト政策に反映させるにはいいきっかけとなるだろう。
 しかしながら、まだ外食企業から目立った取り組み事例はそれほど多くない。
 マクドナルドがもともとやっていた環境対策をあらためてSDGs活動の一環と読み直して企業広報しているのは、それなりに評価できるし、プラスチック使用の食器、備品を排除し紙製に移行していくプログラムなども進行中のようだ。
 まずは、ストロー対策などは外食企業共通の基盤となってほしいところだ。
 ところで、冒頭に出てきたSDGs居酒屋さんは、そのニュースリリースによると、お店の運営方針は主に3つのSDGs目標に沿っているとのことだ。
 まず、⑧項目の成長・雇用として、誰もが簡単につくれて価値創造できるメニューとして天ぷら・おでんを主力商品に据えた。若者や障害をかかえもつ方々でも就労可能なメニューということだ。
 次に②の飢餓対策としての農業重視。規格外で跳ね飛ばされてしまう野菜などを仕入れ、活用するのに適したメニューが天ぷら、おでんであること。
 そして⑫の生産・消費は、「作る責任・食べる責任」と読み替えて、フードロス対策に積極的に取り組むことを表明している。
 作り過ぎたおでんについては、コ―クッキング社の「TABETE」というサイトを活用して、「売り切ること」を目指しているとのこと。このTABETEというのは、各お店で閉店間際に廃棄寸前のメニューが出た場合、それを知らせてくれれば、食べ手を探してくれるインターネットサイトだ。大口の予約がドタキャンされて(あってはならないが)、大量にメニューが余った時などには、かなり役に立つという。
 この居酒屋さんのように、SDGsを「念仏」のように捉えず、ひとつひとつの目標、ターゲットを吟味し、自社の経営政策策定にからめていくのは、きわめて有効ではないかとも思える。CSR(企業の社会的責任)の時もそうだが、外食産業はこういう動きに反応がやや鈍いところがある。企業の「利益」に直結することを考えながら、SDGsにかかわることを社会的に訴える努力も業界の社会的ステータス向上に大事なことではないだろうか?

オフィス・アト・ランダム

松坂健

Posted at - 2020/01/07(火曜日) 17:21:00 -