・【注目インタビュー】落合務氏

落合務氏

一般社団法人 日本イタリア料理協会会長
ラ・ベットラ・ダ・オチアイオーナーシェフ
落合務氏

非常に厳しい料理界の実情を知ってもらうために
各界トップの方と一緒になって今年は声をあげます

 新年明けましておめでとうございます。 
 昨年は労働基準法の改正がありました。働き方改革はもちろん良いことなのでそれに反対する立場ではありません。しかし、週40時間労働の徹底により、料理・飲食業界の皆様が今大変お悩みであることも事実です。人手不足に加え、料理の世界でこれまでスタンダードとしてきたものが全部覆されてしまい、大きな壁にぶつかっているのです。
 ベットラも昨年から週休二日体制にしましたが、営業日数が減り、売上も減少するという現実に直面しています。それでもスタッフの生活を保証しなくてはいけないし、残業代の増加もあり、経営はかなり苦しいというのが実情です。これは多分、皆様同じ悩みであろうと思います。
 日本イタリア料理協会のメンバーはもちろん、他の業種の方たちとも日頃お話をしますが、将来を不安視する切実な声ばかりが聞こえてきます。新しい制度のもとで実際に営業を行ってきて、このままでは経営の継続が難しいと皆様感じておられるのです。
 今のままでは、時間に関係なくもっと仕事を覚えたいという人は救えません。週40時間のなかで技術や知識の伝承はなかなか難しいというのが、我々料理界にいるものの共通した認識です。
 日本の食・料理は世界中から高く評価され、インバウンドの拡大にも大きく貢献してきていると、料理に携わるものの一人として自負しています。しかし、このままでは、その日本が誇る食文化の伝統が継承できなくなり、高い評価も維持できなくなると危惧しています。
 今年は、そういった我々の実情を知っていただくためにも、我々が声をあげることができるような新しい会を立ち上げたいと考えています。悩みを共有するだけではなく、何か解決に向けて話し合いをしていく、そういう組織です。
 お菓子の世界の方も含め、各料理界を代表する方たちと一緒になって取り組んでいければ、大きなインパクトになると思っています。


 
 落合シェフは昨年12月、「令和元年度文化庁長官賞表彰」を受けた。「永年にわたり、国内におけるイタリア料理の普及・振興や後進の育成に尽力し、食文化を通じた国際交流を推進するなど、わが国の文化芸術の振興に多大な貢献をしている」功績が認められたものだ。

 

 日本の様々な伝統文化に携わってきた方たちと一緒に表彰していただきました。この仕事を続けてきてよかったなと思うのと同時に、イタリア料理が文化だと公式に認めてもらえたことでもあります、それが大変嬉しかったですね。
 でも、僕一人の力で表彰されたものではないと思っています。ベットラのスタッフも含めて、後輩たちのいろいろなサポートがあったからこの道一筋でやってこれたのです。そうした環境を後進のためにも作り、残していくのが僕たちの世代に課せられた仕事だと思います。新しい会を通じて、しっかりと声を上げていきたいですね。
 日本イタリア料理協会は今年の4月で会長職を辞し、アルポルトの片岡護さんに受け渡すことが決まっています。会長に就任してすでにまる10年を経過、一人が永くやりすぎるのは問題だと思っていました。
 日本イタリア料理協会は、とにかくやる気のある方たちが多く、活動も年々充実し会員数も増えてきました。2年前には社団法人化して、社会の中でのプレゼンスを上げることもできました。新しい体制でさらに邁進してもらいたいですね。僕自身会長は辞めますが、会にはとどまり、引き続き応援していくつもりです。
 今年の抱負は、とにかく健康です。健康に細心の注意を払い、記念すべき2020東京オリンピック・パラリンピックに来られる世界の方に満足していただけるよう、料理界の一員としてできることに精一杯取り組みます。

(フードライフ2020年1月号より)

Posted at - 2020/01/07(火曜日) 16:05:00 -